新ジャンル「頭のよわい子」 ―アルジャーノンに花束を―

【日記】

○月△日 はれ

今日も男くんとあそんだ。
男くんは今日もやさしかった。
やさしい男くんは大すきです。
あと、しらない男の子にきちがいっていわれた。
そしたら男くんはすごくおこってた。こわかった。
こわい男くんはきらい。
でも男くんはあとでわたしのあたまをなでなでしてくれた。
やさしい男くんは大すき。

【日記2】

今日、がっこうの女の子に男くんとけっこんするにはあたまがよくないとだめだっていわれた。
わたしはばかだからけっこんできないっていわれた。
すごくいやだった。女の子とけんかした。せんせいにすごくおこられた。
わたしは男くんが大すきだからけっこんしたいです。
でもあたまがわるいからけっこんできません。
男くんとけっこんしたいな。

【日記3】

今日、おかあさんとしらないところにいった。
そこはびょういんみたいで、白いふくをきたおじさんがいっぱいいた。
わたしはちゅうしゃをされるとおもっていやだった。
でも、びょういんじゃないっておかあさんが言ってた。
いっぱいけんさっていうのをした。すごいつかれた。
男くんにあいたいな。

【日記4】

今日もいっぱいけんさをした。すごいつかれた。
でも、おかあさんはうれしそうだった。おかねをもらってうれしいって言ってた。
わたしは男くんにあいたかった。
でもけんさをするとすごくつかれてそのままねむっちゃう。
はやく男くんにあいたいな。

【日記5】

今日、またけんさをしたあとに白いふくをきたおじさんにあたまがよくなりたいかなっていわれた。
あたまがよくなれば男くんとけっこんできるから、わたしははいって言った。
おじさんはじゃあしてあげるよって言った。
あたまがよくなれば男くんとけっこんできる。うれしい。
はやく男くんとけっこんしたいな。

【日記6】

今日、にがいおくすりやちゅうしゃをいっぱいした。
あたまがよくなるくすりだっておじさんが言ってた。
あたまがよくなれば男くんとけっこんできるから、わたしはいっぱいのんだ。
はやくあたまがよくなりたいな。
そしたら男くんとけっこんしたいな。

今日、ひさしぶりに男くんにあった。
となりに女の子がいた。男くんはともだちって言ってた。
やっぱり男くんはやさしかった。あたまをなでなでしてくれた。
はやくおとこくんとけっこんしたいな。

【日記7】

今日もけんさだった。
まずいくすりやちゅうしゃをいっぱいした。
わたしのあたまは良くなってるって先生が言ってた。
もっと良くなったら男くんとけっこんできるかなって言った。
先生はわらってた。
早く男くんに会いたいな。

【日記8】

今日、けんさをしていたら男くんに会った。
男くんのとなりには前に会った女の人がいた。
まだ私はバカだから男くんとけっこんできないけど、うれしかった。
今までわからなかった字をよんだら、男くんはナデナデしてくれた。
もっとナデナデしてほしいな。
あたまがもっとよくなったらもっとナデナデしてくれるかな。

【日記9】

今日、うれしいことがあった。
今まで算数なんてぜんぜん分からなかったのに、たくさん分かるようになった。
先生がびっくりしてた。男くんもびっくりするかな。
もっと頭が良くなれば、男くんとけっこんできる。
だからもっと頭が良くなりたいな。

【日記10】

今日は私と同じくすりをのんでる子にあった。
とってもちっちゃいネズミさんだった。
でもネズミさんはとても頭が良くて、私ができないめいろをスイスイとできた。
ネズミよりもバカでいやだったけど、私も頭が良くなればできるようになるよね。
このめいろができれば男くんとけっこんできるって思って私はいっぱいがんばった。

【日記11】

今日はまたびっくりすることがあった。
今までお母さんにつれられて行ってたけんきゅうしつに一人で行けるようになった。
お母さんはもう一人で行けるよねって言った。私ははいって言った。
いつか一人で男くんの所にも行けるようになるのかな。
早く男くんに会いたいな。ナデナデしてほしいな。

【日記12】

今日も剣査をいっぱいした。
私はすごい頭が良くなってるって先生に言われた。すごいうれしかった。
頭が良くなったら男君と結こんできるから、もっと頭が良くなりたいと思った。
本を先生からいっぱいかりた。いっぱい読んだ。ちょっと頭がいたくなった。
お母さんにしずかにしててえらいねって言われた。
もっと本を読めば頭が良くなるから、もっと読みたいな。

【日記13】

検査の検は剣じゃなくて検だって言われた。日記を先生に読まれてることが分かってちょっといやだった。
それと、やっと迷路が出来るようになった。
ネズミさんに勝ったと思ったらネズミさんはもっとむずかしい迷路をしていた。
久しぶりに学校で男君を見た。男君のとなりにはやっぱりあの女の人がいた。
そういえばあの女の人ってだれなんだろう。

【日記14】

最近、検査が簡単に思えるようになってきた。
だから先生は検査をやめて本をもっと貸してくれるようになった。
先生は、日を追うごとに知能がかくだん的に上昇していると言ってた。
つまり、私の頭は良くなってるらしい。とてもうれしかった。
もっともっと頭が良くなったら男君に会える。
私は鼠さん(こう書くって先生に教わった)にがんばろうねって言った。

【日記15】

私の知能は高校生レベルにさしかかったと先生に言われた。
でも、それじゃ男君に比べたら馬鹿だからいやだった。
もっともっと頭が良くなりたいって先生に言った。
先生はちょっとがんばりすぎだって言ってた。
どうして先生はそんなことを言うのだろう。
私はただ男君と結婚したいからがんばってるのに、そんなことを言う先生はいやだ。
そしたら先生は私のことを異常だって言った。
異常っていう意味は本で憶えてた。いやだった。

【日記16】

私の知能は飛躍的に上昇している。
自分でも最近、それは自覚していることだった。
でもそうなることで男君と結婚出来るって思って頑張ってる。
今も一杯本を読んでもっともっと頭が良くなるように頑張ってる。
なら、どうして男君に彼女がいるんだろう。
彼女って言葉を辞書で引いた。引いても何も変わらない。

【日記17】

久しぶりに男君と話をした。あの頃の私と比べているのか、彼はずっと目を丸くしていた。
私は思いきってあの女のことを聞いた。もしかしたら、と思う私の馬鹿げた妄想だった。
そして妄想は現実に押し潰された。
頭が良くなって現実を知った。
知らなければ幸せだったのかな。
馬鹿のままだったら、私はこうして泣いてないのかな。


【日記18】

あの日の後も私は彼と度々会った。もちろん、友人として。
彼は相変わらず私に優しかった。思えば彼女もいるのに、馬鹿なぐらい私に優しかった。
同時にそれが、私に対して何の感情も無い、強いて言うならば同情で私に付き合っていたという証拠だった。
こんな男など忘れてしまえと何度思ったことか、私は贔屓目で見てもモテる部類だろうし、
知能など現在では彼の遥か上と言っても良い。
そうだ、こんな男など。
そう思ってるはずなのに胸が苦しい。私の根っこが、漢字もろくに読めない馬鹿な私が彼しかないと訴えてる。
どうして私がこんな想いをしなければならないのだろう。

追記、最近、鼠の様子がおかしい。どうしたのだろうか。


【日記19】

私は最近、先生の研究グループに参加させて頂いている。
私に施した脳内の人為的変質はまだまだこれからという段階で、私は体の良いモルモットだったのだ。
あの母親も金を貰ったらさっさと別の男の元に走っていったので、頼る所はもうここしかない。
モルモットがいきなり入ってきたので、最初こそ奇異の目で見られていたが、徐々にそれは嫉妬に変わっていくのを感じた。
とうに私の知能は先生さえも凌駕していたのだ。
嫉妬とはなんて醜いものなのだろう。そう鼠に愚痴っても、彼はせっせと迷路を進んでいた。


【日記20】

男君との親交は未だ続いている。
彼はある意味で無知と言うべき感覚で私に付き合ってくれている。
彼のガールフレンドと会う度に、彼女から向けられる視線の何と冷えているものか。
私はもう様々な人間に対してある種の諦めを感じているのかもしれない。
それでも私の向かう視線の先に彼がいるのは、私にとって不可解なものであった。


【日記21】

今日、先生の勧めで某企業の御曹司とやらに会った。
案の定、金と親の威厳でしか女を抱けない馬鹿で愚図な人間だった。
私は適当にあしらって研究室に帰ると、相変わらず鼠の彼がせっせと迷路を攻略していた。
ゴールに向かって淀みない動き。既に製作者のパターンさえも見抜いて一直線に進む彼。
私も彼のように一直線に進めたら良いのに。
そう思っていたら、彼は道を間違えた。
すぐに彼は引き返して事なきを得たのだが、それでも妙に引っかかった。
一時期、知能の上昇に停滞期が見られたが、それは生物的な差異によるものだと片付けられた。
ただ、感じた不安はすぐには取り除けない。
私はすぐに自分のパソコンに向かった。
そうして、絶望的な結果に気づいた。
作者: まとめ
2007年02月26日(月) 22時30分34秒公開

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