「不幸のあらまき」
ほんのちょっとむかし、VIP王国にある小さな、
少し貧乏で、それでもとても幸せなおうちに、あらまきは生まれました。
真っ白でふわふわのあらまきは、お父さんやお母さん、
おじいちゃんにおばあちゃん、それから近くに住むみんなに可愛がられてました。
ところが、あらまきが少しだけ喋れるようになったとき、
おじいちゃんとおばあちゃんが、交通事故でブーンにひかれて死んでしまったのです。
お父さんもお母さんも泣きました。
あらまきも、大きな大きな声で泣きました。
そしてあらまきが歩けるようになった時、
アヒャという心無い人におうちを燃やされてしまいました。
もともと貧しかったあらまきの家族はとても困りました。
あらまきと同じくらいの年の子は、皆お母さんと一緒に公園で遊んでます。
なのに、あらまきのお父さんもお母さんも、
お仕事が忙しくて、ゆっくり喋る時だって全然ありません。
それでもあらまきは泣きませんでした。あらまきは強いのです。
あらまきはいつか、皆で楽しくすごせると思っていました。
それでも神様はいじわるでした。
あらまきがなんの不自由もなくしゃべれるようになったとき、
お父さんとお母さんが病気で死んでしまったのです。
あらまきはたくさん泣きました。たくさんたくさん泣きました。
それから、どうしてなんだろうとなやみました。
つぎのひ、あらまきは近所のやさしいお兄さんに拾われました。
でも、三日もたたないうちに、お兄さんは重い病気にかかってしまったのです。
そのつぎのひ、あらまきは、お金持ちの家族に拾われました。
でも、一週間たったとき、お父さんが会社をくびになってしまい、
あらまきはまた、捨てられました。
サーカス団に拾われました。
次の日、サーカス団の一人が大怪我をしてしまい、
あらまきは逃げ出してしまいました。
だれかに拾われるたび、その人が不幸になるとあらまきは気づいたのです。
それでもあらまきは泣きません。
幸せになれると信じてるのです。
あらまきは、何人もの優しい人に拾われ、捨てられました。
そしてあらまきが、初めてのお誕生日を迎える頃ころには、
あらまきは国の皆に「不幸のあらまき」と呼ばれるようになりました。
それでもあらまきは泣きません。
お父さんとお母さんに会いたくて、ちょっぴり涙が出てきただけでした。
あらまきの初めてのお誕生日から、何年も経ちました。
ドクオという人に捨てられてから、もう誰にも声をかけられません。
パンくずを投げてくれる人も居ません。
あらまきはお腹がすいて死にそうでした。
それでもあきらめませんでした。幸せになれると信じているのです。
ある晴れた日、あらまきはひとりの優しい人に拾われました。
優しい人の名前は、ショボンと言います。
ショボンは、ボロボロのあらまきをおうちにつれて帰ると、
温かいスープとパンをたくさんだしてあげました。
あらまきがそれを食べ終わると、一緒にお風呂に入りました。
あらまきは温かいお風呂に入るのがとても久しぶりで、
ちょっとなみだがでてきました。
ショボンは毎日、いろんなお話をしてくれました。
お星様のお話をしてくれたとき、
ショボンはお父さんとお母さんはあそこに居るよ、と
大きくて明るいお星様を指差しました。
それをじっと見ていると、
お父さんとお母さんが一生懸命働いていたのを思い出して、
あらまきは大きな声で泣きました。
ショボンはいつまでも横に座って、静かに頭を撫でてくれました。
それから少し経ったとき、ショボンのおうちはなくなりました。
火事で燃えてしまったのです。
あらまきは、やっぱり自分が居ると、
周りの人が不幸になるんだと思いました。
それから、ショボンにお別れを言って、前まで居た
道の端っこに帰りました。
でもすぐショボンがおいかけてきて、
新しい家を探しに行こう、といいました。
あらまきはびっくりしました。
捨てられると思っていたのです。
でもショボンは嫌な顔をひとつもしないで、
あらまきを追いかけてくれたのです。
あらまきはまた泣きました。
ぼくが居ると不幸になるよ、と何度言っても、
ショボンはあらまきをはなしませんでした。
それでもやっぱりあらまきは、「不幸のあらまき」です。
何度おうちをかえても、全部なくなってしまいました。
前まで遊びに来てくれていたショボンの友達も、
あらまきが居るから、こなくなってしまいました。
でも、ショボンはあらまきを捨てたりしませんでした。
嫌な顔もしません。それどころか、一生仲良くしようね、
とあらまきと、毎日のように約束してくれるのです。
あらまきはとてもしあわせでした。
毎日面白いはなしをしあって、時々喧嘩もして、
それでも幸せでした。
あるばん、あらまきはショボンに、
ぼくはとっても幸せだよ、といいました。
するとショボンも、ぼくもすごく幸せだよ、と答えました。
あらまきは嬉しそうな顔をして、すぐに眠ってしまいました。
でもショボンは、全然眠れませんでした。
あらまきは全然「不幸のあらまき」なんかじゃないと、
皆に伝えたかったのです。
なやんでなやんで、いつの間にか朝になっていました。
ショボンはさっそく、あらまきを起こしました。
僕に良い考えがあるんだよ、と言って起こしました。
でも、あらまきは目を覚ましません。
ショボンは、とても疲れてるんだと思って、毛布をかけなおしてあげました。
そして次の日の朝、ショボンはまたあらまきを起こしました。
それでも、あらまきは目を覚ましません。
ショボンは初めて泣きました。
こんなに悲しくなったのは初めてでした。
ショボンは一日中泣いていました。
次の日も、またその次の日も、ずっとずっと泣き続けました。
ずっと仲良くしようねって約束したのに、と、
冷たくなったあらまきの隣で、毎日泣きました。
とうとう、ショボンはあらまきは「不幸のあらまき」なんかじゃないと
伝える事は出来ませんでした。
なぜなら、ショボンは今が一番不幸だったからです。
そして、皆があらまきのことなんて忘れてしまったある日、
ショボンは、冷たいあらまきの隣で眠りました。
静かに星が光る夜の事でした。皆さんも夜、白い大きな明るい星を探してみてください。
きっと、幸せそうなあらまきとショボンが、仲良く遊んでいるのが見えるはずです。
おしまい
作者:
2007年04月30日(月) 10時02分36秒公開
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